三匹の悪魔と従者たち
第8章 持たざる者
「彼も結構苦労してるみたいだからさ。 ゴウキの性格じゃ、今他人にアドバイスなんて出来ないんだろうね……おれも人のことは言えないけど」
口元に緩く握ったこぶしを当ててくすくすと笑っているジンに、ユーゴが顔を上げる。
「そんな風には見えないよ。 ジン兄さんも、僕を男らしくないって思う?」
「充分男らしいんじゃない? 結果、ユーゴは何年もの間アイシャを守って来たんでしょ。 でも男らしいとか、そんなのは恋愛ではナンセンスだよね。 おれから言わせれば、スレイが過保護過ぎるよ。 彼は小さい頃から二人を見てるから、感情論としては分からないでもないけど」
もしあのまま、アイシャを抱いていたら。
彼女は後から自分を思い出して、果たして幸福な気持ちになれたのだろうか? ジンに関わる女性たちのように。
ユーゴにはとてもそんな自信はなかった。
「けれど、スレイの言ったことは当たってるんだよ。 アイシャの気持ちを無視したし、あんなのはフェアじゃないって、そう思う」
「ユーゴがそう感じてしまうのは潔癖なスレイの教育の影響だよね。 でも、ベッドの中のことは最終的には、本来二人で決めることだよ。 好きで堪らないから、そうしたんでしょ。 お前が今悩んでるのも、相手がアイシャだからだろ?」
「うん……そうだよ」
ジンには無い、ここ魔界ならではの彼の魅力や能力。
そんなものを余すことなく持っている弟を、彼は子供の頃に羨んだこともあった。
しかし「無い」こともまた、それも強みではないか。
ジンがそう思えるようになったのがいつかは思い出せない。
そしてゴウキもきっと、もしこの場に自分がいなければ、このような場でもユーゴと真摯に向き合っていたに違いない。
生真面目で不器用な自分の兄と弟。
ジンは彼らを愛おしくも誇りに思っていた。
「それなら全く問題ない。 ただ一つ言うんなら─────……」