小さな花
第2章 Not a boyfriend
今日はちょっと久しぶりにシンくんと飲みに来ている。
偶然隣り合わせた、あの焼き鳥屋さん。
「んで、付き合う事になったわけね?」
また興味がなさそうにシンくんが言う。
「付き合ってないよ。たまに遊ぶだけ」
「ふーん…」
「な、なによ」
「やることやって、お付き合いはしないんだ。オトナだねえ〜?」
お気に入りのたこわさびをつつきながら、私は考えていた。
「あれ?怒んない。めずらしい」
「んー…。どうしたら付き合おうって思う?」
「好きなら。じゃねえの?」
好き…
シンくんは即答だった。
私はカズヤくんのことが好きなんだろうか?
「好きってどんな気持ち?」
「んな哲学的なこと、俺に聞くな」
「むぅ…っ」
カズヤくんは遊ぶたびに付き合おうって言うんだ。
だけど、男女がどういうふうに惹かれ合って交際するのか、私にはよく分からないでいた。
「よけいブスになるぞー」
シンくんが、考え込んでいる私の頬をつまんだ。
まともに触れたのは、これが初めてだ。
不意にドキッとして、初めて気になった。
「シンくんって、彼女とかいないの?」
「ん?いっぱいいるよ」
当然じゃん、とでも言うように彼は答えた。
「んもーっ!そういう事じゃなくて!」
でも確かに、それが事実であっても不思議じゃない。
考えてみれば、どうしてシンくんほどの人が冴えない私にかまってくれるのかサッパリ分からない。
「特定の女は作らん。仕事の邪魔。」
いつもふざけ合っているから忘れがちだけれど、シンくんは若くして会社を大きくした仕事人だ。
毎日忙しくしていることも知っている。
また、ぴしゃりと言われちゃった。
「そっかあ…そうだよねぇ。」
胸の奥深くが、かすかに痛んだことに…気付かないふりをして、またビールをぐびっと飲んだ。