小さな花
第2章 Not a boyfriend
「ねえねえ、またおんぶして」
「なんでだよ。歩けてるだろ」
「いいじゃあん…けちー。」
帰り道、酔っ払った私はシンくんに駄々をこねていた。
アパートの階段をのぼり、部屋の鍵をあける。
「お前ね、飲み過ぎると甘える癖、なんとかしろ。」
「心外だぁー!今までそんなこと、言われたことないもん!」
「はいはい、寝言は寝てから言いなさい」
シンくんは持ってくれていた私のバッグを差し出しながら、めんどくさそうに言った。
呆れるようなその口調に、もやもやと切なさが膨らんでいく。
「…めんどくさい?」
「は??」
玄関のドアをあけたまま向かい合う。
「シンくん、どうして私といてくれるの?ほんとうは…」
「……本当は、何だよ?」
「だってさ、仕事だって忙しいし、彼女いっぱいいるし、かっこいいしお金持ちでっ…私は童顔の冴えないビンボー人なのにっ!なんでなの…っ?」
まくしたてた反動で体がふらつく。
「っ…おい!」
前のめりになった私をシンくんが支えてくれた。
「ごめん…なさい」
「ん。素直でよろしい。」
薄々気付いていた。
シンくんはこの町においでよと私を誘い、弁当屋のアルバイトも紹介した。
どちらも私からすればありがたい事だけれど、シンくんからすれば…
「引越し、勧めちまったし。かどやでも働いてくれてるから。めんどくせえとは思ってねーよ、べつに」
やっぱり。
「あはっ…そうだよねぇ!」
しっくり、来すぎている。
「また転ぶぞ。もう寝ろ。じゃあな」
「シンくん!あんまり…気を使わないでね。私、大丈夫だから…っ」
負い目と責任を感じているシンくんに対し、お兄ちゃんができたみたいだとか…指先が色っぽいとか、思っていた自分が恥ずかしい。
パタン、と閉まったドアの向こうで、シンくんが階段を降りていく音がかすかに聞こえた。