小さな花
第2章 Not a boyfriend
「ね、せいらちゃん、バイトしない?」
この町に来て半年近くが経ち、カズヤくんから初めて水商売のお誘いを受けた。
「バイト…?」
「そう、バーで!週末だけでもどうかな?人が足りなくてオーナーが困ってるんだよね」
なんだ、水商売と言ってもキャバクラなどでなく、バーなんだ。
半年くらいは貯金を切り崩してのんびり過ごそうとここまで来たけど、そろそろ他の収入源も作らないと…とは考えていた。
「やってみようかな…」
「さすが!良かった~!じゃあ明日オーナーに言っとく。せいらちゃん…ありがとね。こっち来て…」
今日もまた、カズヤくんは少しの適当さを含んだ手付きで胸をまさぐる…――
…
「せいらちゃん、おはよう」
夜の世界でも、最初に顔を合わせたら”おはよう”と言うものなんだと知った。
「おはようございますっ…!」
「ははっ、そろそろ慣れてきたでしょ?あんまり構えなくて良いからね」
BLUEというバーでバイトを始めて1ヶ月半、今日は初めての給料日なんだ。
相変わらずシンくんはお弁当を買いに来てくれるし、カズヤくんとも週に1度くらい会っている。
BLUEでのバイトは基本土曜日だけだから負担はなかったし、新しい世界は楽しくもある。
週に一度働いただけで、月にすると5万円くらいの収入になるのも嬉しい。
「はい、お疲れ様でした。」
その日の勤務を終え、オーナーが”せいらちゃん”と書かれた茶封筒を差し出す。
「ありがとうございます。」
アパートに帰って確認すると、中にはやはり5万円くらいのお給料が入っていた。
…よし!
翌週の月曜、いつものようにシンくんがお弁当を買いに来た。
「んー、回鍋肉にする」
「セツ子さーん!回鍋肉ひとつです!」
「あーいよー」
注文をしたら、中でセツ子さんがお弁当を作り終えるまで、タバコを吸いながら私と世間話をする。
これがシンくんのルーティンだ。