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小さな花

第4章 I'm happy with my life now


正直、ほかに従業員が増えるのは嬉しい。


けれど、シンくんが連れてくるという、おそらく女性であろう人を思うと少し胸がきゅっとした。


べつに私だけが特別じゃない。そんなわけがないんだから。

思い直し、気持ちを入れ替える。



「忙しい時間だけね、手伝ってくれるって」


前かがみに腰が曲がったセツ子さんは、ありがたそうに笑う。





「近藤加奈子です。よろしくお願いします」


やってきたのは、すらっと背が高く、長い黒髪が魅力的な若い女の子だった。


シンくんの隣に座り、どこかシンくんにすがるようにちらちらと目配せしている。


「山崎せいらです。」


ぺこりと頭を下げると、シンくんが言った。


「最近うちでアパート借りてくれたんだよ。漫画家目指してるんだよな?」


「あ…もうっ、内緒にしてくださいよぅ…っ!」


その顔は、誰がどう見てもシンくんに恋心を抱いているそれだった。


「あはは、わるいわるい。そんじゃ、俺仕事あるから行くわ。セツ子さん、よろしく」


「あいよー!ありがとうねぇシンちゃん」


「せいら先輩もよろしくな」


初めて名前を呼ばれるのがこんなタイミングなんて、ちょっと不服。


おちゃらけながらアスクへ戻っていくシンくんを皆で見送り、さっそく加奈子ちゃんへ業務を教えた。




加奈子ちゃんは昼時だけ助っ人に来るが、忙しい金曜だけは最後までいてくれる事になった。


「今日は初日なので…もし良かったら、最後までいてもいいでしょうか?」


「もちろん。ありがとうね」


真面目そうな印象と、まっすぐに伸びたサラサラの黒髪がよく合っている。


23歳という彼女は私のことを若く見えて素敵だと言ったが、素敵さが彼女に敵わないことはよく分かっている。





閉店間近、カズヤくんがやってきた。


「せいらちゃん!」


いつものように手を振りながらこちらへ来ると、見慣れない女の子がいることに気付いたみたいだった。


「今日からバイトに来てくれる、加奈子ちゃん。」


「あっ、そうなんだ?へぇ…」


上の空にも聞こえる返事をしながら、カズヤくんは加奈子ちゃんの顔や髪をめずらしげに眺めていた。


「よろしくお願いします。」


加奈子ちゃんが会釈をすると、カズヤくんも嬉しそうに会釈した。

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