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小さな花

第4章 I'm happy with my life now


今日は火曜日で、いつもなら「20時に待ち合わせしよう」なんて会話をするけれど、この日は無かった。


カズヤくんは、いわば狩人なんだ。

初めて加奈子ちゃんを見たときの視線で分かった。

強気で、欲しがりで、意志のある目。


私に声をかけてきた時のそれによく似ていた。

彼には狙った獲物は必ず手に入れるような強引さがある。



…ひとごとのようにそんなことを考えていたら、店じまいの時間だ。





その夜、缶ビールで乾杯するとすぐにカズヤくんは言う。


「加奈子ちゃん…だっけ?」

「うん?」

「すごい若そうだったね」

「23歳だって」

「えぇ。若っ!」

「だよね。髪サラサラで感動しちゃった」


カズヤくんは私の言葉に笑うふりをしながら、結局は加奈子ちゃんが何曜日の何時にいるかを聞き出した。


味気ないセックスが始まり、なんだか心底うんざりしてくる。


「せいらちゃん…上になって動いて…?」


彼にまたがって身を揺らしながら、早く終われと何度も心の中でつぶやいた。




それから、カズヤくんとのデートは少しずつ減っていった。

デートと言えるものではなくなっていたのだけれど…。


私は毎週のルーティンのようになっていた逢瀬がなくなり、どこか気が楽にもなっていた。




久しぶりに会ったある夜、もうこの関係をやめたいと伝えた。



「え?なんで…」


そんなことを言われるなんて思いもしなかったという表情でカズヤくんは絶句している。


「そもそも付き合ってたわけじゃないし…なんていうか、一回やめない?」


なるべく明るく答えたつもりだ。


けれどカズヤくんはグッと私の手首を掴み、「嫌だよ」とハッキリ言った。



「嫌だよ、せいらちゃん。俺は絶対いや。これからもこうやって会いたい。」


都合よく性処理したいだけでしょうとか、次は加奈子ちゃんを狙っているんでしょうとか、喉まで出かかってやめた。



結局、なにも決着がつかないままその日は別れた。


初めて、セックスも泊まりもなしで別れた。



カズヤくんからは「いやだからね。また会ってよ」とメッセージが入った。


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