小さな花
第1章 Moegi Station Shopping Street
しばらくあれだこれだと話をしてから、”アスク”という不動産屋をすすめられた。
「あそこはねぇ若者向けの賃貸物件が多いから。きっと大丈夫だよ」
引越してきたら是非また顔を出してね、なんて言われ、すっかり仲良くなってお店を出た。
…
貯金はあるし、退職金も来月になればそれなりに振り込まれるはずだ。
けれど、まだ新しい職探しにも手を付けていない。
やっぱり家賃はなるべく抑えたいしなぁ…。
到着したアスクという不動産屋は、たしかに若者向けっぽいきれいめな内装なのが見て取れる。
ウインドウに貼り付けられている物件情報を見ていたら、自動ドアがあいてしまった。
…と思ったら、スーツ姿の背が高い男性が出てきた。
タバコを取り出して、カチャッとZIPPOをひらいたところで私に気付く。
「…んっ。お客さんかな?」
まるで小さい子に声をかけるように言った声は、酒焼けのようなハスキーさがある。
加えていたタバコを箱に戻し、どうぞ、と中へ促された。
見たところ、30代後半くらいだろうか。
ワックスかなにかでツヤめいた髪が、黒黒と輝く。
「お客様です。対応よろしく」
男が言うと、ゆるやかにカーブしているカウンターの中で若い従業員が「はい!」と返事をした。
腰掛けると向こう側から、名刺を差し出される。
アスク不動産 営業 倉田大地
さっきの人は、再びタバコを吸いに外へ出ていった。
「倉田と申します。お部屋探しですかね?」
おじさんに紹介されてきたことを伝えたあと、アンケート用紙のようなものを渡された。
名前、現住所…そして、希望の家賃や間取りを記入するみたいだ。
「山崎せいら様ですね。お仕事がまだ決まってない…と」
書き終わった用紙に目をやり、倉田さんは言った。