小さな花
第1章 Moegi Station Shopping Street
「勤務先が無いと、基本的には審査に通らないんですよね…。なのでハードルを下げるために、弊社の管理物件をご紹介しますね!…――」
結局、アスクが管理するアパートを3件紹介してもらった。
それでも一応審査はあるということで、倉田さんは私の身分証やなんやかんやをどこかにFAXした。
…
1時間も待った。
そして、その結果は「否」だった…
「審査はわたくしが関与できない部分でして…大変心苦しいのですが…――」
倉田さんは申し訳無さそうに頭を下げた。
「いえっあの…出直しますので。大丈夫です…っ」
丁寧に、最寄りのリーズナブルなホテルまで紹介してくれた。無職という現実が身に沁みる…。
…
日が暮れてきた商店街は、夜の顔をのぞかせはじめていた。
昼間には気付かなかったあやしげなマッサージ店や、キャバクラの看板が目につく。
やっぱり、先に仕事を探さないと駄目か…
結局、なにも決まらないまま1日が終わってしまう。
がっくしと肩を落とし、教えてもらったホテルへ歩いた。
…
チェックインを済ませ、再び商店街へやって来た。
もう腹ペコだし、お酒も飲みたい気分だ。
ふらりと入った焼き鳥屋はカウンターのみの小さなお店だった。
一番奥に座り、生ビールと焼き鳥数本、それからたこわさび。
ぐびっと冷たいビールが喉を通ると、虚しさが湧いて来た。
店内は少しずつ、おもにサラリーマンで混んできた。
私の隣にも新たな客がやってくる。
「生ね」
慣れた様子でビールを注文する声に、思わずガバっと顔を見てしまった。
酒焼けした、あの声だったから。
「…っ?!」
男は驚いて私を見、それからいたずらな笑みを浮かべた。
「さっきはどうも。」
「ど…どうも…」