小さな花
第4章 I'm happy with my life now
「じゃあ、お先に失礼します」
ある日の14時頃、いつもどおり加奈子ちゃんがバイトを上がった。
今日はシンくん来なかったな。
毎日来るわけではないけれど、やっぱり来ない日があると少し気になってしまう。
「うお~、腹減った」
脳内をのぞかれたようなタイミングで、シンくんの声が聞こえた。
「あれ?今日は遅いね」
「忙しくてさぁ。…焼肉弁当!」
慣れた手つきでZIPPOの火を煙草にくっつける姿が、なんだかなつかしい。
「加奈子ちゃん、ついさっき上がったんだよ」
「…だから?」
「え…?いやべつに…なんとなく」
「なんじゃそりゃ」
どうでもよさそうに煙草をふかしながら、シンくんはスーツのポケットからチョコレートを取り出した。
「やる」
「…なんで?」
「コンビニのクジで当たった」
答えになってないけど…と思いつつも、素直に受け取った。
「ありがとう」
「なんか気にしてんの?最近こっち出てこねえじゃん」
「べつに?」
シンくんは目をほそめて私をじーっと見た。
「な…なに?」
「べつに?」
わざとらしく私の口真似をしながら答え、焼肉弁当を受け取ると忙しそうにアスクへ戻っていった。
まさか、自分がみじめになるから厨房へ引っ込んでいるだなんて言えない。
加奈子ちゃんは美人で大人っぽいし、やっぱり自信なくすよ…自信なんて、もともとないけど…。
シンくんは私にしたように、加奈子ちゃんも飲みに誘ったりするんだろうか。
いやいや、そんなの私には関係ないじゃん――。
…
「加奈子ちゃんは背が高くて、シンくんと並んでも見劣りしないのね。私にもあとちょっと身長があれば、もうすこしマシだったな…」
なげく私に、「小さい子って可愛いじゃん」と高身長のタケちゃんが言う。
今日はタケちゃんと、いつもの焼き鳥屋さんで飲んでいる。
「シンちゃんって確かに男前だけど、僕のタイプじゃないな~。どうしてそんなにシンちゃんにこだわるの?」
「こだわってないよ…!」
いつも近くにいて目に入るから、気になってしまうだけなんだ…。