小さな花
第4章 I'm happy with my life now
「そんなの言葉遊びじゃんかぁ。…でももういいの、私今すでに幸せだもん。おやすみ~」
にこにこ顔で玄関の扉を閉めてから、なんだか切なさが目にこみ上げる。
静かに佇む中、しばらくしてからシンくんが階段をおりていく音が聞こえた――
今日は本当に楽しかった。
私はシンくんを…きっと、すごく好きだった。
けれどもう、シンくんにこだわるのはいい加減やめよう。
このまま…なんでもない関係でいたほうが、きっと良いんだ。
掴めないシンくんへの恋に飛び込むのは怖い。
…
「あれ?なんか雰囲気ちがうじゃん」
今日は加奈子ちゃんと一緒に、店頭に立っている。
この間、自分で踏ん切りをつけたら一気に気持ちが軽くなった。
シンくんの意地悪だって、加奈子ちゃんへの贔屓だって、今ならきっと受け流せる。
「そう?ふつうだよ」
「ふーん?…あっそうだ、駅の前にできた居酒屋いった?」
友達もほとんどいないのに、最新のお店に即座に行けるはずもない。
「いや…できたのも知らなかった」
「行こうぜ!地酒が100種類とか言ってた。最高」
…まだ、だめだ。
もう少し時間が欲しい。
2人で出かけてしまったら、また揺らいでしまいそうだから…。
「あぁ…えっとうん、そのうち」
「なんだよ?お前、地酒すきじゃん。つれねえの」
ZIPPOに火をつけながらシンくんはつまらなそうな顔をした。
「わ…私、行きたいです!」
突然、加奈子ちゃんが大きな声で言い、頬を赤らめている。
「加奈子ちゃん、お酒飲めんの?」
少し驚いたようにシンくんが言うと、加奈子ちゃんはコクコクと頷いた。
行ってらっしゃい…―――いや、それも変だな。でもなにか、言わなければ…。
「そ、そうなのかぁ加奈子ちゃんお酒飲めるのかぁ良かったねシンくん、…あっセツ子さん、手伝いましょうかぁーー?」
すごく不自然で早口な言葉を置いて、逃げるように厨房へ引っ込んでしまった。
どうしてこうもダメなんだろう、私は…。
結局その日も14時頃になると加奈子ちゃんが上がっていき、なんだか嬉しそうに急いで帰っていく後姿をただ見送った。