小さな花
第5章 Kiss
事情を話すと、おじさんは一緒に考えてくれた。
「実用性のあるものが良いんじゃないかい?筆記用具とか…」
考えてみても、シンくんがボールペンやなにかを使っているのは想像がつかない。
「筆記用具かぁ…」
「いつもスーツ着てんなら、タイピンとかどうかね?」
「タイピン??」
「これだよ、こういうの」
おじさんはニット素材のラフなネクタイをつけていて、そこにくっついているクリップのようなものを見せてくれた。
おしゃれアイテムのひとつでもあるけれど、食事の時にネクタイが邪魔にならないとか、ずれにくいとか、利点もあるらしかった。
裏通りにワイシャツの専門店があり、そこにネクタイやタイピンもあると思うよ、と教えてくれた。
お礼を言い、すぐに向かう。
レンガ造りの店構えは洗練されたおしゃれな雰囲気で、なんとなく入りづらい…。
「こんにちは。良かったら見ていってください」
私に気付いた店員さんがドアをあけ、にこやかに言った。
おずおずと店内に入り、ずらりと並んだワイシャツを眺める。どれも男物のようだ。
「贈り物ですか?」
「あっはい…えっとあの…タイピン?を見たくて」
案内されたガラスケースの中には、所狭しとタイピンが陳列されていた。
一見どれも同じに見えるけれど、価格は2,000円~数万円までピンキリだ。
「わぁ…どれがいいんだろう…」
「会社の方とかご友人でしたら1万円以下のもの、恋人でしたらもう少し良いものを買われる方が多いですね」
結局、私は店員さんにおすすめされた5,000円くらいのタイピンを選んだ。
銀色のクリップに、小さな黒の天然石が一粒埋め込まれたシンプルなものだ。
買ってしまってから、私からシンくんへタイピンを贈るのがなんだかとてもズレているのではないか…と不安になる。
その夜、BLUEには倉田くんがやってきた。
1週間ほど前にタケちゃんと3人で飲んだのに、また同じメンバーが集まったことに笑い合い、とても楽しかった。
「また来てね、大地ならサービスするよ」
タケちゃんはいつの間にか倉田くんを下の名前で呼ぶようになった。
倉田くんは困ったような照れたような笑みを浮かべて帰っていった。