小さな花
第5章 Kiss
翌週。
高級な店だったらどうしようと不安になりつつもお金をおろし、シンくんとの待ち合わせ場所へ急ぐ。
駅前の小さなタバコ屋の前に、今日もスーツ姿で煙草をふかしているシンくんが見えた。
「…わぁ!すごい!」
店内の棚という棚に、ぎっしりと一升瓶が並んでいる。
カウンターの前には酒樽がどーんと置かれ、小洒落た照明で照らされていた。
平日なのに客も多く、私たちはカウンターへ案内される。
「シンくん、おめでたいんだから樽酒でも飲もうよ」
景気よく一口目をぐびっと喉に落とし、ううう!と一緒に声を上げた。
「うまい!」
「うん!うん!」
常温で辛口のお酒は、喉をピリピリと刺激した。
胃に到達すると心地よい熱が体中に広がっていく。
「北海道から九州まで、ぜんぶ飲もうぜ」
「それはさすがに潰れる~~(笑)」
ふざけ合っているとお刺身の盛り合わせが運ばれてきた。
あれもこれもうまいと言い合いながら、楽しいな、としみじみ思う。
…
お酒も進み、頬が熱い。
この勢いで渡してしまおうと、私はバッグから小さな包みを取り出した。
「なんだよ?」
「これね、あの…誕生日だから?っていうか…ホント、なにがいいか分かんなかったし気に入るかどうかアレだけど…っ」
シンくんは「マジか」と言いながら包みを受け取り、そっとあける。
「タイピンじゃん!いいじゃん」
この間えらんだタイピンが、シンくんの手におさまった。
「大丈夫…だった?」
「なにが?」
おかしな質問にシンくんは私を見る。
「なんていうか、選び方とか?私、タイピンって今まで知らなかったの」
それを聞くとシンくんは満足そうに微笑み、その場でタイピンをつけた。
「どうよ?似合うか?」
「うん…すごく似合う!…と私は思う…」
どうにも自信がないけれど、その黒い天然石はシンくんにぴったりに見えた。
「さんきゅな。使うよ」