小さな花
第5章 Kiss
ずっと日本酒を飲み続けているせいか、体がふわふわと気持ちいい。
「そろそろ行くか?」
シンくんは酔っている素振りもなく、いつもどおりだ。
…
「誕生日だから行きたいってシンくんが言ったから、お金おろしてきたのにぃ!」
結局お金を払わせてもらえなくて、私はぷんすか怒りながらエレベーターのボタンを押していた。
「あのねえ、俺がお前におごられる日なんて来ないわけ。わかった?」
子供をなだめるような口調で言いながら、彼は私の頭をくしゃっと不器用に撫でた。
「これのお礼に、もう一軒いこうぜ」
シンくんはタイピンを見せつけながら、慣れたように私のバッグを持ってくれる。
到着したバーの店内は驚くほど真っ暗だった。
明かりはキャンドルのみで、店員の顔さえよく見えない静かな店内には控えめなBGMが流れている。
BLUEには無いような本格的なカクテルやおつまみがたくさんあった。
ところどころで客がひそひそと談笑しているけれど、全部でどのくらいの客がいるのかは分からない。
「シンくん、こんないやらしいお店知ってたんだ」
「まあな、モテ男だから」
軽蔑するような私の視線を知ってか知らずか、シンくんはあっけらかんと答えた。
「さすが」
他の女の人も連れてきたのかな。
プレゼントなんて、たくさんの女の人からもらうんだろうな。
なんだか自分が何物でもないような切なさに、少しうつむく。
普段は飲まないようなカクテルを注文し、キャンドルの灯りのもと小さく乾杯した。
「この灯りだと、お前もちょっと大人っぽく見えるわ」
「ほんと?」
素直に嬉しくてシンくんを見る。
「そんな嬉しいの?」
「そりゃあ嬉しいよ。私、気にしてるんだから」
「童顔なこと?」
「うん…」
「プフッ」
「またそうやって笑う…。」
「いや、こだわるなぁと思って」
「え?」
「なんでそんなに背伸びしたがんの?」