小さな花
第1章 Moegi Station Shopping Street
「っていうかキミ、お酒飲んで良い年なのっ?しかもたこわさ…プフッ」
「ええ?私もう30ですけど…」
店中の客に聞こえるほどのボリュームで男が驚いた。
…
ビールが運ばれてくると、乾杯を促されてジョッキをぶつける。
「…で、アパート見つかった?」
馴れ馴れしいはずの言葉なのに、なぜだか嫌な気はしない。
ゆるめたネクタイから漂うフェロモンを感じる。
この男はモテるだろう。
なのに一人で焼き鳥屋??なんだか意外だ。
「おーい。聞いてる?」
クスクス笑いながら、男が私の目の前で手を振る。
「っ…すみません。えっと…審査に落ちちゃったみたいで」
「えぇ?なんで?もしかして無職?」
「はい…」
「ああ、無職だと8割9割は落ちちゃうよ。」
あっけらかんと言う男は、つくねを注文した。
「そうですよね…」
「でもね、うちの管理物件なら、働いてりゃほぼ審査には通る。どんな仕事でも。」
「どんな仕事でも…」
「そ。水商売でも、アルバイトでもなんでも」
「なるほど…。」
「あ、名前は?」
男は内ポケットから名刺ケースを取り出しながら言った。
「山崎です。」
「俺はこういうモンです。よろしく」
アスク不動産 代表取締役 有馬 真
って、えぇ?この人、社長だったんだ…
ARIMA SHIN
とローマ字表記もあり、それを確認してから言った。
「有馬…さん」
「うん。キミは今どこに住んでんの?」
名乗らせておいて、結局キミと呼ぶんだ…まぁ、いいけど。
「都内です。」
「えぇ?!都内からこの町に引越すの?またなんで…――」
…―――