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小さな花

第5章 Kiss


しかしそんなのはお構いなしで、シンくんは一気に話した。


3歳で孤児院に入ったが当時の記憶はなく、なんの疑問も持たないまま育ってきた。


母親の名前は分かるが、どこにいるのか、生きているのかも知らないし特に知りたくもない。


シンくんが小学3年の頃に、4歳の倉田くんが孤児院に入ってきた。


たいそうかわいがり、大人になって”アスク”を起業し、すぐに迎えに行った―――


「だからまぁ、あいつとは兄弟みたいなもんだし。少なくとも一切記憶にない母親よりは…家族に近いというかね」



私は安易な言葉を吐いてはいけないと、黙って深くうなずいた。






度数の高いカクテルを3杯も飲み、いよいよ足がくらくらと浮き立つ。


キャンドルの灯りや落ち着いたBGMが心地よくて、つい目を閉じた。


「おい、寝るなよ~」


「ん、大丈夫…」


ゆっくりと目をあけるとシンくんの横顔がオレンジ色の灯りにそっと照らされている。


髪の毛先、まつげ、印象的な目、スッと通った鼻筋…―――


唇に視線を移した時、胸の奥がせつなくトクリと鳴り、同時に下半身が痺れる。



「あんまり見惚れないでくれる?」


いじわるな笑みは出会った日を思い起こさせた。


「ごめん…――」


「お?素直じゃん」


シンくんは機嫌よく爪楊枝にオリーブを刺し、私の口元へ運んだ。


「んぁ……」


口をあけると、遠慮がちにオリーブが入ってくる。


「シンくんってさ…」


「ん?」


「狙った女は、100発100中でしょ」


「ブフッ。なんだよそれ。」


クックと笑うシンくんに、また少し胸が痛んだ気がした。


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