小さな花
第6章 Past story
「せいらさんが初めてアスクに来てくれたあの日は、衝撃でした」
はにかむ倉田くんが少し乙女っぽく見えてくる。
「どうして私に話してくれたの?」
「それは…せいらさんが僕の理想の容姿だったのと、前に言ってた…恋愛ってよく分からないっていうあの」
「あぁ、うんうん」
「僕も今まで、恋はしても恋愛ってしたことがほとんどなくて。なので共感っていうか…すみません、勝手に」
「全然そんなことない!話してくれて嬉しい」
倉田くんは、シンくんにゲイだと知られることを恐れていた。
知ってほしいのに、怖い。
兄弟のような関係だからこそ。
私にカミングアウトして味方につければ、シンくんの理解も得られるかもしれない。そう思ったそうだ。
「だから僕、すごくずるいんです」
「正直でいいじゃん!あはは。でも…シンくん、別に私がどうこうしなくても理解してくれそうに感じるけどな」
「そうですか?」
「うん。タケちゃんにも、まったく偏見ないし。」
少し安心したように肩をすくめる倉田くんは、きっとお化粧したら美人に化けるだろうなぁ、なんて感じていた。
「そういえばせいらさん、最近社長となにかありました?」
ドキリと心臓が跳ね、あの夜のキスが脳裏に浮かぶ。
「ぶっ…。え?どうして?」
思わずビールを吹きそうになりながら、どうにか平然を装った。
「いやぁ。最近いつも、かどやから戻ってくるとブツブツ言ってて。」
「どんな?」
「あいつ今日も奥で知らん顔してやんの、とか何とか…」
「あぁ…」
やっぱり気付かれてるよね。
あの日以降、突然こんなによそよそしくなるなんて。
中学生のような自分が恥ずかしい。
「喧嘩でもしたんですか?」
「ううん、全然!してないよ!最近セツ子さんのお手伝いで忙しくて…」
それらしい言い訳で取り繕いながら、シンくんが私のことでブツブツ言っている姿を思うとなんだか嬉しかった。