小さな花
第6章 Past story
なかなか良い気分で眠れた夜だったけれど、翌日は”ごく普通の一日”ではなかった。
待ち合わせ場所で待っていると、シンくんは女の人を連れてきたのだった。
「悪い、どうしてもって言うから…」
私が戸惑っていると彼は両手を合わせた。
「初めまして!」
にっこり笑うこの女性は由梨さんと言うらしく、とにかく店に行こうと3人で歩いた。
”ちょっと!なんなの?!どういう事?”
目線でシンくんに訴える。
彼はごめんごめん、というようにまた謝る仕草をした。
「生3つ」
当たり前のようにシンくんが注文すると、すぐに由梨さんは話し始めた。
「ごめんなさいね、急に一緒に来ちゃって。」
「あ、いえいえ…」
早口でペラペラと喋る彼女の言うには、2人は同じ孤児院で育った仲らしかった。
シンくんの表情から、”めんどくさい奴が来ちまった”とでも言いそうな心情が伝わる。
「そうだったんですね」
由梨さんは大学を出てから、自分の育った孤児院で働いていると言う。
「それにしても、シンってば久しぶりに会ったのに全然つれなくて。飲みに行く約束があるからって言うからついてきたら…こんなに可愛らしい子とデートなんて!」
「あはは…そんなこと」
「ううん!ほんとに可愛い!子供みたいに」
やわらかく言う言葉の中にチクリとトゲを感じた。
いかに2人が仲良く育ってきたか…とか、2人しか知らないような内輪ネタばかりで退屈してくる。
本当は、大好きなもつ鍋を食べながらシンくんとまた馬鹿笑いでもしたかったなぁ…。
「どうする?次。日本酒?」
シンくんが慣れた様子で私にメニューを手渡す。
私が生ビールを2杯飲んだら、次はお酒を変えるということをよく分かっている行動だった。
それを見ると由梨さんは突然、はっきりとした口調で言った。
「私たちね、付き合ってたのよ」