小さな花
第6章 Past story
えっ…?と彼女を見ると、にっこりと笑う顔がこちらを見ていた。
「おい。んな昔の話」
すぐにシンくんが止めに入るも、由梨さんはまた言葉を放った。
「結婚も決めてたの。」
うふふ、とはにかむように言う彼女に、私はどんな顔をしていただろう。
「やめろ」
シンくんが強く言い、由梨さんはすねるふりをして、でも楽しげに、トイレへ向かった。
「…。」
何も言えないし、言いたくない。言うべきことがない。
「悪い。今日急に来てさ。どうしてもって」
「いいよ、気にしてない」
「…さっきのは昔の話」
「べつにフォローする必要ないじゃん」
私たちは恋人でもなんでもないのだから。
この間のキスが頭によぎり、無性に悔しくなった。
「フォローじゃない。事実」
「…どうでもいい。見せつけるために来たんなら、私帰る」
子供じみた自分に悔しさが増していく。
「おい。聞けって」
シンくんは立ち上がろうとした私の腕を強くつかみ、制した。
「なにを?聞くことなんかないよ。もうじゅうぶんだよ」
一体なぜこの3人が集まらなければいけないの?
シンくんは何がしたいの?
”ムカつく”、と口に出る寸前、由梨さんが戻ってきた。
「どうしたの?」
「あの…私、そろそろ帰らないと」
「え~残念。また飲もうね。私、また横浜からこっち来るからさ!」
私は財布から5,000円札を抜き取り、テーブルに置くと早足で去った。
ここで1万円札でもバーンと出せればかっこいいけれど、現実はこんなものなんだ。
駆け出た屋外はひんやりと冷たく、もうすぐ冬がやってくることを知らせていた。
思いだしたくもない、さっきまでの光景が目に浮かんでくる…。
由梨さんはかいがいしくシンくんのもつ鍋をよそったり、おしぼりでシンくんの前をこまめに拭いたりした。
彼女の言わんとすることは、嫌でもわかる。