小さな花
第6章 Past story
早足でも15分かかった。やっとアパートが見えた。
振り向いたらシンくんが追いかけてきていた…なんて事はなく、私は1人で階段をあがった。
いつものように眠りにつく。
どうか、今夜は良い夢が見られますようにと祈った。
翌朝、シンくんからの着信が3件と、ポストには5000円札が入れられていた。
…
「有馬さん、なにかあったんですかね…」
あれから、シンくんがかどやに来なくなって1週間経った。
心配している加奈子ちゃんに、私はなにも知らないという素振りで「うぅん」と曖昧な返事をした。
「私、昨日見ちゃったんですよね。有馬さんが女の人と歩いてるの」
加奈子ちゃんはしょんぼりと言う。
なんとなく由梨さんだと悟ったけれど、なにも言わずにいた。
ここに来ない間にも、2人は会ってるんだ…。
今までは毎日のように来ていたのに…。
すさんだ感情が渦巻いていく。
しかし、まさかもう来ないつもり?という思いはあっさり裏切られ、数日後にはシンくんがいつも通りの様子でやってきた。
私はすぐさま厨房に入り、セツ子さんの手伝いをした。
シンくんがアスクへ戻っていくのを確認してから店頭へ戻ると、「電話しろって言っておいてって、有馬さんが…」と加奈子ちゃんが言った。
あの夜以来、2日に1度ほどシンくんから着信が入る。
なんだか出られずに今日に至ってしまった。
「あぁ…」
声を漏らした次の瞬間、カズヤくんがやってくるのが見えた。また厨房へ引っ込まなければ…。
同じようにカズヤくんが去ったことを確認してから戻ると、今度は加奈子ちゃんからポストカードのようなものを手渡された。
「これ、篠原さんが。せいらさんに渡してって」
見ると、それはイベントのリーフレットだった。
「ディスコdeクリスマス…?あぁ、もうそんな時期かぁ」
「おもしろそうですね!私も行ってみたいけど、30歳以上しか入れないからダメだって言われちゃいました…」
皮肉に聞こえなくもないが、私は素直に微笑んだ。