小さな花
第6章 Past story
その夜、ずいぶん久しぶりにカズヤくんから着信があった。
「もしもし?」
「せいらちゃん!久しぶり。元気?」
カズヤくんとは最後にデートした時、付き合いたいと言われ、そのすぐあとに加奈子ちゃんもデートに誘っていることを知り…
結局、自然消滅のように連絡が途絶えていた。
「うん…。カズヤくんも元気にしてる?」
「うん!たまに弁当買いに行くけど、せいらちゃん忙しそうだからさ」
「あは…」
「ね、今日加奈子ちゃんに渡しておいたリーフレット見てくれた?」
「うんうん、見たよ。もうそんな季節かぁって」
「あはは!」
聞けば、30代の世代が楽しめるちょっと懐かしい洋楽を流すらしい。
「でも、クラブでしょう?」
「場所はね。だけど音量は抑えた、結構おちついたイベントなんだ。良かったら来てよ、せいらちゃん」
カズヤくんの会社が主催する、毎年恒例のイベントだという。
「友達に聞いてみる」とぼんやりした返答をして電話を切った。
真剣に付き合いたいと言われたあの日のことは、もう消えてなくなったみたいだ。
大人っていうのは楽なようで、なんだか苦くもあるなぁ…。
翌週のある日、朝起きるとまぶただけが開き、体が動かなかった。
「え…?」
1人なのについ声を漏らし、鉛のように重い体をなんとか起こす。
ぼやーっと顔面が熱く、すぐに熱があることを確信した。
ダメ元で体温計をわきに差し、テレビをつける。
ピピっと鳴ったそれを見ると、もうすぐ39度に達する勢いの数字が見て取れた。
セツ子さんに電話すると、最近頑張らせすぎちゃった、と謝られた。そんな事ないのに…。
「とにかく2~3日休んでちょうだい。こっちは大丈夫だから!店しめたら、弁当持っていくよ」
当たり前になっていたかどやへの出勤が無くなると、私は目的を失ったようにグタリと横になった。
早く治さなくちゃ…―――