小さな花
第6章 Past story
テレビでは「12月です」と当たり前なことを言って盛り上がり、もうすぐやってくるクリスマスにおすすめのデートスポットを紹介している。
はあ、と吐き出した溜め息が熱い。
いつの間にか眠っていて、チャイムの音で目が覚めた。
ピンポーンという間の抜けた音とは別に、ドアをたたく音もする。
重い体を起こし、ゆっくり立ち上がるまでの間にもドンドン、と音は続いた。
玄関に近づくと「大丈夫かー」「おーい」と声が聞こえる。
…シンくんだ。
「何?」
ドアの向こうへ投げかける。
「いいからとりあえずあけろよ」
少し迷ってから、カチャリと鍵をあけた。
シンくんのほうからドアが勢いよくひらかれる。
「おばちゃんに聞いた。大丈夫か?」
「大丈夫」
「うそつけ。顔死んでる」
「…」
恨めし顔で見る私におかまいなしで、シンくんは「どれ」とおでこに触れた。
「うわ。高熱だわ。寝てろよ」
「鍵あけにきたんでしょっ!もう……はぁ…」
少し大きな声を出しただけで息が切れる。
「わり。ほら、おぶってやるから」
シンくんのおんぶは久しぶりだ…。
ここでお姫様抱っこじゃないところがシンくんらしいな…
嬉しくなっている自分がちょっと悔しい。
そっと布団に寝かされると、おでこにはひんやりシートが貼られた。
「食えそうなもん、どれでも食え」と、ゼリーやカットフルーツが入ったコンビニの袋をシンくんが広げている。
アイスは冷凍庫入れとくからな~と立ち上がった彼に、ありがとうと小さく言った。
「べつに。わりいことしちゃったし、償い?ははっ。お前、かどやでも全然でてこないし」
「…あれからどんな顔して会えばいいのか分かんなかったから」
「お前がよそよそしいと気持ち悪い」
「…むぅ」
「あれは気分よくねえよな。悪かった。」
案外しっかり謝ってくれたあとで、シンくんは由梨さんの話をした。