小さな花
第6章 Past story
シンくんは高校卒業後、起業を目標に修行のため惜しまず働いた。
23歳でアスクを立ち上げてすぐ、由梨さんと交際することになった。
由梨さんは当時大学2年で、卒業したら結婚したいと言った。
「確かにその時は俺も、ちゃんと考えてやらねえとと思ってた。」
「うん…」
「で、あいつが大学卒業して孤児院にも改めて挨拶した。結婚するつもりだって。」
私は頷いた。
「そしたらあいつがもう1年先にしようって言うから、俺は全然急いでなかったし仕事ばっかしてたね」
「それで?」
「1年後、やっぱり結婚できないって俺ふられた(笑)」
「えぇ?」
「イイ男が出来たんだよ。若かったし、しゃあない」
由梨さんの姿を思い起こすと、とてもシンくんをふったとは考えにくかった。
「んで、その男と結婚したみたいで、それから関わることもなくなってたわけよ」
「で、どうして今になって…?」
「離婚したんだってさ、半年前に。」
「…へぇ…」
「結婚が流れてもう8年も経ってんだぜ?こっちだって状況変わるっつのなぁ」
至ってどうでもいいことを話すようにシンくんは煙草をふかす。
「やり直したいんでしょう?シンくんと」
「んな勝手なこと言われてもな。」
彼はそう答えるとゴロンと横になった。
「仕事、大丈夫なの?」
時計を見るともうすぐ16時だ。
「ん。倉田に任せてきた。ちょっと寝たい…―――」
布団に入っている私のそばで、スーツ姿のままシンくんはすんなり眠りに入ってしまったようだった。
…
「…っ!!」
ハッと目が覚めると、部屋の中は真っ暗だ。
シンくんが来てくれて…ええっと…今、何時だろう。
携帯を探そうとまさぐってみると、すぐ隣に人の気配がした。
「ひぃ…ッ!!」
恐怖で変な声が出る。