小さな花
第6章 Past story
状況を把握できずパニックになりそうになった瞬間、声がした。
「うぅ、寒っ…」
まぎれもないシンくんの声が、同じ布団の中に潜り込んでくる。
「え?どういうこと…」
「何時?」
私の問いには答えずにシンくんがつぶやいた。
暗闇に慣れてきた目で時計を確認する。
「3時すぎ…」
「んん…。まだ寝れるな」
「えぇ…???」
「さみいって」
冷気が入るからと私を横になるよう促し、布団をかけてくれる。
目が冴えそうになるが、「いいから寝ろ」というシンくんの低い声にいざなわれ、また眠りに落ちた―――
…
「歯ブラシない?」
「予備があったはず…」
結局、朝まで同じ布団で眠った。
シンくんは何事もなかったかのようにシャワーを浴びて歯を磨く。
まぁ、本当に何事もなかったんだけど…。
熱は微熱といえるくらいに下がった。
「シンくん、風邪うつったかもよ」
「そしたら休める。それはそれでよい。」
ふふっと咄嗟に笑う私に、おばちゃんが持ってきてくれた弁当食えよとシンくんが促した。
「受け取ってくれたの?」
「んだって、お前寝てたし」
セツ子さん、変に思っただろうか…。
「それより俺もう行くけど、お前は今日もちゃんと寝てろよ。なんかあったら電話」
「うん…」
「あれ。見送りは?」
「あっ…はい」
催促され、玄関先まで見送る。
「この間、おまえがどうしてもキスしたいって言うからしたじゃん?」
「どうしてもなんて言ったっけ?」
「今日は俺がしたいからする。」
私の問いには答えず、シンくんは事も無げに言った。
「え…」
戸惑う私をよそに、シンくんは革靴を履き、ネクタイを整える。
「よしっ。行くわ」
「うん」
答えると同時にシンくんは背中を曲げ、私の顔を覗き込むようにキスをした。
「んぅ…――っ」
彼の舌は器用に口内を滑り、右手は私の耳を撫でる。