小さな花
第7章 Eve night
「う~ん。まだ熱いな。これ、交換しとけよ」
おでこに貼られたひんやりシートをつつき、仕事へ出かけていった。
シンくんのせいでまた熱が上がったんだよっ!と心の中で突っ込みながら、唇が冷えていくのを感じていた。
私たちって付き合ってるの?
なんて子供じみたこと、言えない。
どうせまた、からかわれるに決まっている。
このキスを知っている女が数多くいると思うと嫉妬が顔を出しそうになるけれど、感謝の気持ちのほうが強かった。
風邪をひくと心細くなるから…。
…
「結局、月に2~3回は来てますよ。疲れます…」
2日間の休養で風邪はすっかり良くなり、いつもどおりかどやへ出勤するようになって2週間が経った。
今日は倉田くんと飲みに来ていて、”月に2~3回やってくる”というのは由梨さんのことだ。
「横浜から月に何度も…。まるで通い妻だね、ふふっ」
「笑えませんよぅ!」
倉田くんは孤児院にいるときから由梨さんのことが苦手らしかった。
「どうしてそんなに嫌なの?」
「すごく上から目線だし。確かに僕は年下ですけど…。あの人、たぶん僕をライバルみたいに思ってるんです」
「ライバル?」
「昔の話ですけどね、僕とシン…あ、社長が、飲みに行ったり遊んでると、いつも不満そうにしてて。なんで大地とばかりいるの?!って、泣き喚いたこともあるんです。僕の前で、ですよ?」
「ありゃりゃ…」
「由梨さんってすごく嫉妬深いし、独占欲が強い。そのくせ、自分はほかに恋人つくって…――」
もともとウマが合わないところに、由梨さんの浮気や婚約破棄でさらに嫌悪感が重なっているようだ。
「社長は18で施設出ちゃいましたけど、当時まだ僕10歳で。由梨さんは大学2年くらいまでは施設にいたんで、一緒に生活した期間は結構長いんです」
「なるほど…!」
大学2年といえば、由梨さんとシンくんが付き合い始めた頃のはずだ。
そのつもりはなくても、この間シンくんが話してくれた内容と裏付けがされていく。