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小さな花

第7章 Eve night


「付き合い始めて、しかもそれが結婚の話にまで…。気は進まなかったけど、社長の人生ですから。僕はなにも言わなかった」


「うん…」


「でもまたあの人が現れて!横浜からわざわざ嗅ぎつけて…僕がこんなこと言うのおかしいですけど、分かってるんですけど、…」


倉田くんは一息おいて、ビールをぐびりと大きく飲んでから言った。


「あの人のこと、嫌いだし許せないです」


「そっか…」


「社長は真面目に交際してました。でもほかに好きな人がいるって、自分から言い出した結婚の話も破棄。離婚して寂しくなったらまた社長につきまとって…都合よすぎませんか?」


同意を求められ、私は曖昧にうなずいた。


「あの2人、…結局、やり直したの?」


「それはないと思います。社長いつも煙たがってるし…でも由梨さんが、孤児院についての相談とかなんとか理由づけるもんだから、無下にもできないみたいな…」


「で、今も由梨さんはこっちにいるってわけか」


「はい。だいたい金曜の夜に来て、ホテルに泊まってますね」


たしかに今日は金曜日で、店内では週末を待ちわびていたサラリーマンたちが飲み騒いでいる。



溜め息が出そうになるのをこらえ、私は明るく言った。


「そうだ!倉田くん、クリスマスは予定ある?イブの日!」


「へ?」


「イベントがあるの。良かったら一緒に行かない?タケちゃんも誘ってさ」


折りたたんでバッグに入れっぱなしだったリーフレットを手渡す。


「でもこれ、30歳以上って…僕、行ってもいいのかなぁ」


「知り合いがいるから、ことわっておくよ!全然いいでしょう。倉田くんもほぼ30だしさ」


ふふっといじわるに笑いかけると、倉田くんも照れたように笑った。



「でもせいらさん、クリスマスなのに良いんですか?」


「なにが??」


「社長と会ったりしないんですか?」


「ストレートに聞くね(笑)なんにも約束なんてしてないし、そもそも恋人でもないし…」


それに、クリスマスに会おうなんて言ったらまたガキくさいとでも言われるのがオチだろう。


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