小さな花
第7章 Eve night
間もなく、バッグの中でけたたましく携帯が鳴り出した。
きっとあの2人のどちらかだろう。
着信音を無視してアパートにたどり着くと、久しぶりにたくさん走ったせいで膝が言うことを聞かない。
なんとか階段をあがって部屋に入り、鍵を閉めた。
まだ少し荒い息を整えながら携帯を確認する。
着信は4件で、すべてカズヤくんからだった。
また、シンくんと由梨さんの姿が思い浮かんでしまう。
ブーツを脱いだその時、騒々しく階段を駆け上がる音が響く。
ドキリと心臓が跳ね、息をひそめて硬直した。
ザッ、ザッ、…と足音が近づき、私の部屋の前で止まった――。
すぐにインターホンが鳴り、ほぼ同時にドカドカとドアが叩かれた。
「おい。俺だ。」
…シンくんの声だった。
「…。」
「聞いてんの?」
「…。」
「とりあえず、さみぃからあけろ」
カチャリ、と静かに鍵をあけるとすぐにシンくんが入ってくる。
「お前さぁ、なんなの本当。急に逃げんな」
「…ごめん…」
「で?何事?」
乱れたセーターを見ながら、シンくんが圧のある声で言った。
「なにもっ…。カズヤくんに誘われたイベントに、倉田くんとタケちゃんと行ったの」
「ほ~。そんで、その男にせまられたって事ね」
「…っ」
互いにせまい玄関に立ったまま、シンくんは煙草に火をつけてフゥーっと煙を細長く吐いた。
「あのさ。無防備すぎない?結局あいつと中途半端な関係つづけて、俺のキスも拒まねえで。なにが目的なんだよ?わけわかんねえよ。」
怒っているのが声や呼吸から伝わってくる。
「カズヤくんとはもうなにもないよ!」
「…。」
シンくんは答えず、また煙草を深く吸った。
「シンくんこそ何なの?そもそもなんでキスしたの?なんでイブの夜に由梨さんといるの?なんで…私の気持ち知ってるくせに…――」