小さな花
第7章 Eve night
「お前にキスしたい、と思ったからした。由梨とはなにもない。少なくとも俺はなんとも思ってないし、お前が嫌ならもう会わない」
それって、つまり…私のことが好きなの?
喉元まで出かかるけれど、やっぱり聞けなかった。
口をへの字に曲げて見上げる私に微笑みかけると、シンくんはネクタイをゆるめながら部屋に入っていく。
「明日、どっか出かけようぜ。クリスマスなんて意識してなかったんだよ。…そんで、”私の気持ち”ってどんな?」
「いじわる」
ククッと笑う顔はいつものシンくんそのもので、私もつられて口角をあげた。
「由梨さんはどうしたの」
冷蔵庫から缶ビールを2本取り出しながら聞く。
「ああ、タクシーに押し込んできた」
2人で小さく缶をぶつけてから、ちびちびと舐めた。
さっきまでの出来事がやっと落ち着き、イベント会場にタケちゃんと倉田くんを置いてきたことを思い出した。
「連絡しとかなきゃ…」
先に帰るねとメッセージを打っていると、シンくんは「大丈夫だろ」とどうでもよさそうに言う。
「ん、まぁね、一応だよ」
「あの2人、くっついた感じ?」
いたって普通に言うものだから、私もごく普通に”いい感じだったよ”なんて返しそうになる。
「えっ……?知ってたの?」
聞くと、シンくんは倉田くんがゲイだと知っていた。
「分かるよ、そんくらい。何年も一緒にいるんだし」
「そ、そっかぁ」
「だからお前と倉田がデートしたって聞いても、な~んも思わなかった。ククッ」
「そういう事だったの…。あ!じゃあ、ゲイじゃない人とデートしてたら?やきもち焼いてた?」
「…どうだろうな。」
「冗談で言ったのに。どしたの?シンくん、なんか変」
「どういう俺なら変じゃない?」
驚いて彼を見、見つめ合った次の瞬間、ゆっくりと押し倒された…―――。