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小さな花

第8章 Why do you kiss me?


結局…
大晦日はテレビを見ながらダラダラと過ごし、「あけましておめでとうございま~~す!」というお笑い芸人たちを見届けてからすぐに眠った。



翌朝、気持ちのいい冬晴れの中かどやへ向かう。


セツ子さんに新年のあいさつをし、それでもどこか実感がわかないまま作業に取り掛かった。


正午が近くなり加奈子ちゃんもやってくると、彼女は注文口に立つ。


店の前にはすでにお客さんが列を成していて、セツ子さんの「もう注文とっていいよ」という言葉でスタートを切った。







それから2時間ほどひっきりなしに注文が入り、受付の加奈子ちゃんも厨房のセツ子さんと私もてんてこ舞い。


15時が近くなってようやく落ち着いてきた。


「加奈子ちゃん、ちょっと休憩して」


「ありがとうございます!じゃあ…」


厨房の奥にセツ子さんがいつも用意してくれてあるお茶を飲み、裏口のイスで少し休む。

それがかどやの休憩だ。



不動産屋のおじさんがやってきて、新年のあいさつと一緒に餅を渡した頃、加奈子ちゃんが戻ってきた。


厨房に戻ると、オーダーが入っていないのにセツ子さんが餅をパッキングしている。


「ああ、これねぇ、シンちゃんの会社に。毎年あげてるの。」


食べ盛りの若い社員もいるから沢山いれるのよ、と嬉しそうにセツ子さんは笑っていた。




夕方また混雑したが、なんとか乗り切って閉店の18時を迎えた。


店の前に出していたのぼり旗を片付けているとき、シンくんと倉田くんがやってきた。


「おっす」


「あ、シンくん」


明けましておめでとう、と言わないところが何とも彼らしい。


隣では倉田くんが丁寧にお辞儀をしていた。




「今日も仕事だったの?」


「まさか。会社のやつらと初詣だよ。儲かりますように~って祈願。ははっ」


話しながら注文口まで行くと、加奈子ちゃんのうしろからセツ子さんが顔を出す。


「シンちゃん、おめでとうね!今年も取っておいたから食べてよ」


「ありがとなー、おばちゃん」


私も店の中に入ると、加奈子ちゃんが見てるのにまったく気にする様子もなくシンくんは話し始めた。


「明日さあ、せっかくならあっちで昼メシ食いたいよなー」


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