小さな花
第8章 Why do you kiss me?
「ん…そ、そうだね」
驚いている加奈子ちゃんを横目に、声が上ずりながらも早口で答えた。
「じゃ、10時には出れるようにしとけよ。寝坊したら罰金な~」
ひらひらと手を振る後ろ姿が小さくなっていき、ついていく倉田くんも見えた。
「2人とも~!こっちいらっしゃいな」
加奈子ちゃんからなにか聞かれるより先に、セツ子さんの呼ぶ声がした。
ホッとしたような気持ちで厨房へ行くと、それぞれにビニール袋を手渡される。お餅だ。
「わあ、ありがとうございます。」
その夜はセツ子さんのお餅を食べながら、旅行の準備をした。
久ぶりに心が躍る。
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翌日、10時より少し前に携帯が鳴り、見ると外にはシンくんの車が止まっていた。
「2時間もあれば着くだろ。何食う?」
いたって普段通りのシンくんの横顔を見て、おかしな気持ちになる。
エッチしたのにいつも通りだし、恋人じゃないのに旅行…?
頭をもたげかけた時、「おい?」とまた声がした。
「あぁ、うん。お蕎麦とか?」
「いいね~。昼は蕎麦食おう。んで夜はモツ煮とおでんに、地酒だ」
「わ!最高」
「だろ?」
――私たちって何?どういう関係?
聞いてしまえば崩れる気がして、今は忘れようと自分に言い聞かせた。
山梨県に入り、美味しいお蕎麦を食べてから宿泊先のコテージへ向かった。
管理棟自体が居酒屋のような変わった作りで、注文すれば個室まで届けてくれるようだ。
「よし、もう風呂入って酒飲もうぜ」
ここでやっと、お正月の実感がわいてきた。
「いいね!」
お風呂はヒノキで造られた丸い浴槽で、かけ流しの温泉が大きく湯気をたて、窓の外には木々に積もった雪が見える。