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嵐びーえる。

第16章 番外編③ 真実のその後で

渡「普通でいい。ただ、人を救え。医者は、患者を救うことだけ考えろ」



煙草を揉み消し、続けた。




渡「親父がまだ現役で、俺がまだ駆け出しの医者だったころ、この場所で、こうやって、煙草を吸ってた」




火の消えた煙草を切なげに見つめてから、投げ捨てる。




渡「“分かってるよ”。あの時俺は、そう答えた」




私は、何も言えなかった。





渡「あの後、親父は医療過誤を擦り付けられ、東城大を出、すぐに亡くなった」





ただただ、淡々と語られる話に、耳を傾け続けた。







渡「佐伯を許すわけにはいかない。必ず復讐してやる。そう、心に誓った」




ギュッと、渡海先生の拳が、きつく握られる。





渡「その思いだけを胸に、俺は腕を磨き続けた。地方の一病院の一般外科医、そんな俺が東城大に潜入するには、それしか術がないと信じていた」





力なく、拳が開かれ、下ろされる。








渡「やがて目論見通り、佐伯は俺を引き抜いた。俺は、佐伯に従順に従いながら、時を待ち続けた」





自虐的に、笑いを漏らす。




渡「何年も何年も、東城大で、佐伯の下で、働いた。悪魔と呼ばれようと、関係ない。ただただ俺は、親父の無念を晴らすために、働いてきた」





教授を恨み続けてきた、渡海先生の怨念の深さが、滲み出ていた。






渡「そして、その時は訪れた。これですべて終わる。佐伯を引きずりおろせる。心底、嬉しかった。やっと、親父に顔向けできると思った」








渡海先生が、私のほうを向いた。




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