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【禁断兄妹 外伝】銀の檻 金の鳥

第2章 おやじさん


「おう、目ぇ覚めたか」


「‥‥」


首を回すと
台所でしゃこしゃこと歯を磨いている一人のじいさん。


「おはようさん」


「‥‥」


「大丈夫か、具合悪くねえか」


じいさんは流しに泡を吐き出すと口をゆすぎ
がらごろと豪快にうがいをする。

ここはどこだ

起き上がり
腹にかけてあったタオルケットをなんとなく折りたたんで脇に置いた。

俺がいる和室から
じいさんが立っている板張りの台所が見える。

天井や壁の感じからして随分年季の入った古く質素な家
ここがじいさんの家なのかよくわからないけれど
俺はこのじいさんのことを知っている。

毎日走っているランニングコースにあるボクシングジム
その外にある休憩所のようなイスにいつも座っていて
誰かと喋ったり将棋をしたり新聞を読んだりしている小柄なじいさん
年の頃は七十歳くらいだろうか。


「大丈夫か。昨日のこと、覚えてるか?」


昨日

昨日の夜
俺は酒が買える自動販売機で缶酎ハイを五本買って
その近くにあった公園のベンチで一人で全部飲み干した。

その後走りだしたくなったのは覚えているが
そこからの記憶がない。

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