【禁断兄妹 外伝】銀の檻 金の鳥
第2章 おやじさん
「あんまり、ないです」
「えらい酔ってたもんなあ。どこまで記憶ある」
「公園で缶酎ハイを五本飲んで、走りたくなって、走りだしたまでは、なんとなく」
「いつもそんなことしてんのか」
「いえ、初めてです」
俺の答えにじいさんは叱るでも呆れるでもなく
初めてだからそんな無茶できたのかもなあ、と笑った。
「お前さん、ろくに喋れねえくらい酔っぱらっててよ、うちのジムの外に置いてある椅子に座って潰れてたんだわ。全然歩ける状態じゃねえし、しょうがねえからうちの練習生に手伝わせて俺んちに運んだんだわ」
やはりここはじいさんの家だった。
ジムのすぐ近くにあるアパートの一階だという。
「ご迷惑かけて、すみません」
「お巡りさん呼んで任せようかとも思ったんだけど、学校に話が行って停学とかになるかも知れねえだろ。お前さんは全くの他人じゃねえからさ」
そう
俺達は互いの名前も知らないけれど
数か月ほど前から顔見知りではある。
毎日ランニングでジムの前を通り過ぎるうちに
向こうは俺の顔を見ると片手をあげて
よっ、ご苦労さん、と笑顔を見せ
俺は軽く会釈をしながら通り過ぎる
そんな関係。
じいさんがジムの中に入ったり出てきたりするところを見たことがあるから関係者だとは思うが
会話をしたことはなく詳しいことは何も知らない。