【禁断兄妹 外伝】銀の檻 金の鳥
第2章 おやじさん
「なあ修斗。さっきから言ってるその色々ってやつ、話してみろ」
二人分の食器を流しに置いて急須と湯飲み二つを手にして戻って来たおやじさんは
再び俺の向かいに腰を下ろすとそう言った。
「一宿一飯の恩義って知ってるか。宿と飯を提供してくれた相手には恩があるんだ。お前の身の上話でちゃらにしようじゃねえか」
「俺の話が恩返しになるんですか」
「なるさ。興味があるよ。こんな男前でいい体してる中学生が学校もやめて住み込みで働きてえなんてさ。どんなことがあったのかと思うじゃねえか」
「たいして面白くないと思いますけど」
「もう十分面白れえよ」
おやじさんは笑いながら
焦げ茶色の茶を注いだ湯呑を俺の前に置いた。
「こうしてここにいるのも何かの縁だ。話してみろ。別に誰に言いふらす訳じゃねえから」
「はい」
一口すすった茶は熱い麦茶だった。
冷たくない麦茶を飲むのは初めてで
この茶といい古びた家といい焼いただけの食パンといい
俺にとっては全てが奇妙な非日常
現実と一枚層がずれているような
夢の中にいるような不思議な感覚
それはひりつく胸の痛みを鈍化させ
むしろ穏やかだ。
俺はサッカーに夢中だった小学生時代のことから
ぽつりぽつりと話し始めた。