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妄りな昼下がり(仮)

第2章 雪 30

雪は小学校から帰って来たばかりで腹がペコペコだった。
玄関に入り、靴を無造作に脱ぎ捨てたらダイニングキッチンからシチューの匂いがした。小走りでキッチンまで駆け寄る。
いい匂い、食べたい。けど勝手に食べたらお母さんに怒られる。
お母さんにご飯はいつなのか?聞きに行かなければならない。風呂場を開ける。母はいない。トイレをノックする。母の声はしない。
寝室から人の気配がする。寝室のドアの隙間が開いている。
雪は恐る恐れドアの隙間を覗いた。
シミーズ姿の母が、髪を振り乱している。
雪の眼に映るのは母では無い、母の姿をした陰獣だ。
それでも雪は腹が減っていたので、
「お母さん、私お腹が空いたの」
と言った。陰獣はこちらを振り向いて言った。

「うるさい!豚!勝手に食えばいいだろ!」

雪は陰獣に、ごめんなさい。と言って寝室のドアを閉めた。
なんで帰って来た時に気付かなかったんだろう、男物の靴がある事に。どうして私はいつも周りを見れないんだろう。自分を責めながらシチューをお玉にすくい、味噌汁椀に入れキッチンに座り込み、温めずに食べた。この日は下痢をした。シチューに入っていた肉が傷んでいたのだ。

どこからか、成の声がする

「雪、風呂入って寝ろ!さすがに汚ねえよ。」

雪は焦点の合わない眼で成を見た。

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