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妄りな昼下がり(仮)

第5章 名もなき男 のち 秋斗 時々 達也

待ち合わせのF駅に到着する、爽やかな風と共にストリートピアノの音色が聞こえてくる。
以前もF駅でピアノを弾いていた青年だ、今回はショパンの「別れの曲」を哀愁漂わせて弾いている。
もっと音量を大きくしなければ・・
ピアノの音色は雑踏やノイズに紛れてかき消される。
青年はショパンを傾倒しているのだろう、鍵盤を叩く指に愛を感じた。
もう達也と待ち合わせの時間だというのに、達也からLINEが無い。少し苛立ちを覚えた雪は自ら達也にLINEを送った。

「あの、着いてるんですが、達也さんはまだですか?」

五分後、達也からLINEが届く。

「あ、ごめん。ユキちゃん。まだ30分くらいかかります。」

達也は多分、何事に対しても根がルーズだ。以前も遅刻したし、車の中も雪とのデートでも整理されていなかった。とはいえ、雪も異性関係に関しては超がつくほどルーズなのだが。
一抹の不安を覚える雪。
怒りで頭を一杯しないようにして、ストーリートピアノを集中して聴く、うんいい音色だ。
聴いてほどなくして、達也からLINEが届いた。

「着きました!以前と同じバス停!」

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