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妄りな昼下がり(仮)

第7章 混ぜたら危険。雪vs母

それから暫く経って、成が荷物をまとめて出て行った。職場の独身寮に空きが出たからとの事だった。もう年齢的に独身寮に暮らすのがギリギリな成は、後半年も経たないうちに出て行かんといかんけどなぁ、と笑いながら言った。
なんだか、別れに実感の無い雪は、タッパーに成の好物のハンバーグやら、シチューや、エビフライを詰めて、寮に着いたら食べてねと渡した。
けど、最後の最後まで成は要らないと突っぱねた。
「なんで?」
と悲しそうに雪が聞くと、
「アホか。」
としか返ってこなかった。

寮まで送って行くと雪が言うと、成はまた、アホか。玄関先まででいいわ!と言った。
玄関を開けて自然光が入ってくると、成の若白髪が一際目立った。
五年前に初めて会った時よりも深く刻まれたほうれい線に愛しさを感じて、最後の別れを言う。

「私と付き合ってくれてありがとう。」

「あほんだら、こちらこそ。あとこれ3ヶ月分の家賃。お前1人じゃ頼りないやろ?もっと安いとこあったら越せよ。」

そう言って、成は雪に金の入った茶封筒を渡す。
いや、いいよ。と雪が首を横に振っても、無理矢理渡してくる。
やっぱり成の事が好きだった。もう一度一緒に暮らそうと雪から言ってしまいそうになる気持ちを抑えてバイバイした。
成と別れて玄関のドアを閉じた瞬間、雪は玄関で大泣きした。泣いても泣いても涙が溢れ出て、止まらなかった。

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