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私は失恋エディター

第3章 西条みなみ先生

その時、かばんの中から『一瞬の夏』の単行本がピョコと顔を覗かせていた。

「あ、あの、サインしてもらえますか?」

私はおずおずと本を差し出した。

「もちろん。喜んで。」

西条先生は自分のサインと一緒に私の名前も添えてくれた。
憧れの作家の先生に会えて更にその担当者になれるなんて大学生の失恋したあの頃の私に教えたら驚くだろうな。
そういえば、アイツと知り合ったのも西条先生の本がきっかけだったかな。

「何か思い出した?」

私の顔に書いてあったのかそう聞いてきた西条先生。

「あ、そう…ですね。ちょっと学生時代の頃を。大学の購買で『一瞬の夏』を目にした時なんですけどね。」

西条先生の顔には明らかにその話、聞きたいと書かれている。
アイツの話をするのは少し癪だが、ここまで言ってしまったし、途中で止めるのもあまり良くないだろう。

「その日は急遽、空きコマが出てしまった日で暇をしていて…だから趣味の読書でもと考え、本を買いに学内の購買へ足を運んだんです。その時に出会ったのが先生の本でした。でも、その時、読めなかったんです。」

「どうして?」

「私が取ろうとした『一瞬の夏』の本を隣にいた男子が取ったんです。私がその子の方を見たので私が読みたがってたのには気付いたみたいですが。」

そのまま何も言わずにその時は行っちゃったんですけどね。
そう言って私は笑う。
アイツの第一印象はまさに感じの悪いやつだった。
でも、数日後に印象を改めることになるとは思いもしなかった。

「数日後のことでした。その男子が私に声を掛けてきたんです。私が読みたがってたのを覚えていたのか『一瞬の夏』を譲ってくれたんです。だから、その…西条先生のサインしてもらった本…」

「そっか。思い出の本なのね。」

西条先生はウンウンと頷いてくれた。
気付くと結構、時間が経っていた。

「あっ、すみません!長居してしまって。」

すると西条先生はニコニコして言った。

「いいえ。全然!とても楽しかったわ。水沢さん、また私の茶飲み相手になってくれる?」

「え?それは全然、構いませんが。」

「本当?良かった!」

そう笑顔で言うとまたと言って西条先生と別れた。

「なんか可愛くて素敵な人だったな。」

ポツリと呟く。
なんかキラキラしていた。
好きなことをしてる人ってこんなにキラキラするんだ。

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