このインモラルで狂った愛を〜私と貴方の愛の手記〜
第3章 別れは突然に
「リディアナ。お前の気持ちもわかるが、ユリウスの言う通りだ。少し控えなさい」
「っ、……はい、お父様」
改めて父にそう釘を刺されると、私は止めていた手を動かすと食事を口へと運んだ。けれど、乾ききった喉では上手く食事を飲み込むことができない。
いずれ失われる時間だと分かってはいたものの、せめてウィリアムが婚約を発表する時が来るまではと──そう思っていた私の考えは甘かったのだ。
早く大人として対等に向き合えるようになりたいと思う私の気持ちとは裏腹に、大人になるにつれてその距離の遠さに現実を突き付けられる。
せめて、ウィリアムに見初められる程の秀でた容姿を私が持っていれば──。婚約者として、あるいはウィリアムの隣に立つこともできたのかもしれない。
そんな非現実的な考えを思い浮かべながら、父と兄が話す会話に耳を傾ける。
「まぁ、そんなに心配することもないさ。いよいよ、アルフレッド皇子の出立の日取りが決まったんだ。三週間後らしいよ」
「そうか! いよいよ、隣国との貿易が本格的に始動するわけだな。これでこの国も、もっと豊かになるぞ」
「その護衛に、ウィルを推薦しておいたよ。きっと、数年は帰ってこないだろうからね。これでリディも、余計な噂が立つ心配もないよ」
───!?
兄の発した言葉にビクリと肩を跳ねさせると、私は驚きに身を固めた。
父と兄が話している隣国との貿易とは、確か以前聞いた話によれば、このイヴァナ帝国とハインスク公国との友好を固く結びつけるのにとても重要なものだとか。そしてそれは、互いの領地に面した平地を開拓することで貿易を可能にするとかで、その場所はここより五十キロ程離れた帝都の、更に百キロ南下した場所にあると聞いている。
それにウィリアムが護衛として行くのだとすれば、もう今までのようには確実に会えなくなってしまうのだ。
思いもよらない突然の別れに、私は愕然とすると小さく震えた。