このインモラルで狂った愛を〜私と貴方の愛の手記〜
第3章 別れは突然に
わかってはいた。わかってはいたのだ──いつか別れが来ることは。けれど、こんな形での別れを想定していなかった私にとって、それはあまりにも衝撃的な話しだった。
「お兄様……。三週間後に、ウィルはここを出ていかれるの?」
「そうだね。その前に、ちゃんとお別れを言っておいで」
「っ……。……ええ、わかったわ」
兄の言葉に小さく頷いた私は、自分の手元に視線を落とすと涙を堪えた。
これはきっと、いい機会だったのだ。いずれ来る別れなら早い方がいい。この想いが熟しきってしまってからでは、ウィリアムへの想いを断ち切ることも難しくなってしまうのだ。
そう自分に言い聞かせながらそっと瞼を閉じると、堪えきれなくなった涙が一雫、私の頬を伝ってポタリと落ちた。
「リディアナ……。辛いのはわかるが、仕方がないことなんだ」
「そうよ、リディ。ランカスター卿の前では涙を見せてはダメよ、心配なさるわ。……笑顔で送り出してらっしゃい」
「はい……っ、お父様、お母様」
心配そうな顔を見せる父と母に向けて小さく微笑むと、それに安心したかのように優しい笑顔を返してくれる二人。そんな両親の優しさに感謝しながら涙を拭うと、私は今一度ウィリアムへの想いを断ち切る覚悟をする。
こんな事になってから今更自覚するとは、自分自身が本当に情けない。この想いは、確かにウィリアムへの恋心だったのだ──。
そう自覚したと同時に断ち切らなけばならないとは、なんて残酷な仕打ちを神はお与えになるのだろうか。乗り越えられない試練はないと言うならば、きっとこの想いもいつか淡い思い出となるのだろう。今は辛くとも、きっといつかは笑える日が来る。
そう自分に言い聞かせると、私はその想いに無理矢理蓋をしたのだった。