🌹密会🌹
第10章 🌹March(終章)-1🌹
「自棄を起こして酒を飲み、反社会的勢力の男に騙されて手酷く抱かれた。それは事実だ。だがそれは2ヶ月以上も前の事で、昨日の事ではない。昨日お前を抱いた男とは別人だ。その男とは当然繋がりがある上に、お前はその男に惚れている。ソイツとの関係を断たれる状況だけは避けたいが、その前にこの状況を切り抜けなくてはならない。だから、2ヶ月以上も前の話を引っ張ってきた。お前は最初から俺の質問には何も答えていない。そういう可能性も否定出来ない。」
抑揚を抑えた機械的な口調で言い放つ彼の言葉は刃となって美月の心に突き刺さる。
悲しみで美月の目には涙が浮かび上がっていた。
「違います..貴方の...勘違いです。その話だって整合性は欠けてます...それに私が...そんな事出来るような...器用な人じゃないって...黎一さんなら分かっている筈です。」
「悪いが、全くお前の話は響かない。私の信用を得たいのなら、それを裏付ける“証拠”を提示しろ。」
もはや涙声になって訴える美月だが、怒りを帯び、温かみのまるで無い冷ややかな命令口調の日比谷教頭の態度は変わらない。
証拠なんて無い。何一つ無い。
どうしよう。
このままじゃずっと
彼は何も信じてくれない。
美月の潤んだ目の端から大粒の涙がボタボタと床に落ちていく。我慢の限界だったのだろう。彼女はしゃがみ込むと、悲しみを堪えきれずに嗚咽を漏らしたのだった。
「泣いたところで何になる?出来ないなら出来ないなりに、私に誠意を見せろ。時間の無駄だろう。馬鹿が。」
無慈悲にも彼は美月に暴言をぶつけると、床にしゃがみ込んだ彼女を睥睨する。
どうすればいい?
どうしたら彼に許してもらえる?
罵詈雑言を浴びせられた彼女は、必死に思考を巡らせる。
その結果、今、自分に出来る最大の事は彼への償いだと、そう思ったのだ。