🌹密会🌹
第11章 🌹March🌹(終章)-2
「俺は喉から手が出る程、お前との子供が欲しかった。」
獣の呻くような、苦しげな日比谷教頭の声が頭上から降ってきて、美月は思わず大きく目を見開いた。
そこには精神的な苦痛に苛まれているかの如く、クシャクシャに顔を歪めながら、酷く濁った目で美月だけを見つめている彼がいた。
彼の苦しそうな姿を目の当たりにして、美月は言葉を失った。
そんな彼女を肩の骨も砕けそうな程、彼は激しく抱きしめる。
彼の本心だと確信した。
聞きたい事は山程あった。
しかし、口が開かない。
そのうちに聴覚が麻痺して、美月を呼んでいる筈の黎一さんの声が全く聞こえなくなった。
光速の如く視界の両端は欠けていき、あっという間に暗闇に呑み込まれていく。
“貴方には素敵な婚約者が居るのに“
そう言えば、彼はなんと返しただろうか。
それでも私の子どもが欲しいと言っただろうか。
意識を手放す瞬間、生理的な涙が頬を伝ったような気がした。