🌹密会🌹
第12章 🌹March🌹(終章)-3
外出...?何処に...?
二階へ登ってくる足音と、ビニール袋か何かが擦れた時に出るガサガサとした雑音が大きくなっていく。
扉前に突っ立っているのも邪魔だろうと思った美月は、開けかけた扉を閉めるとベッドへと腰掛けて日比谷教頭が来るのを待つ事にした。
日比谷教頭は小さく扉を開ける。美月がまだ寝ていると思っていたのだろう。
「黎一さん、おかえりなさい。」
「美月....。その...身体の具合は...?昨日、随分咳き込んでいたから、薬局に行ってきたんだが...大丈夫か?」
何処か遠慮がちに答えた日比谷教頭の顔色は頗る悪く、目の下にはうっすらクマが見えた。
「黎一さん....寝ていないんですか?」
心配になって声をかけた美月だったが、「私の事は気にしなくていい。」と素っ気なく返されてしまえば、彼女はそれ以上問い詰める気にはなれなかった。
手に持っていたレジ袋の中身を、ナイトテーブルの上に置いていく。
総合風邪薬や解熱鎮痛薬として有名な市販薬、ポカリ等のスポーツドリンク。それらがあっという間にナイトテーブルの半分以上を占領していった。
「ありがとうございます...。気を遣っていただいて。丁度、喉や頭が痛くて困ってたんです。」
「礼を言われる事はしていない。熱は無いのか...?」
「分からないです...まだ測ってなくて...。」
美月がそう言うと、日比谷教頭はナイトテーブルのスライドトレーから体温計を出し、彼女の手にそっと渡した。
美月はそれを脇に挟むと、ピピピという電子音が鳴るまで暫く待った。
「38.3...。」
「やはり解熱剤を買ってきて正解だったな。横になって安静にしていた方がいいだろう。...すまない、熱冷ましを買い忘れてしまった。今、買ってくる。」
そう言って美月に背を向けようとした日比谷教頭の腕を彼女は掴むと、こちらに振り向かせた。