🌹密会🌹
第12章 🌹March🌹(終章)-3
「...ここに居て下さい。」
「美月....。だが...私は...。」
バツが悪そうな顔で煮え切らない返答をする日比谷教頭に焦ったくなった美月は、突っ立ったままの彼に抱きついた。
「もう充分です....。いつもの黎一さんが戻ってきてくれたから。」
涙目になった両目を彼のチャコールスーツの胸元に押し付けながら、彼の背中に回した腕に力を込める。
「すまなかった...美月。散々、お前に怖い思いをさせて。謝った所で許させる問題ではないと思うが....謝らせてくれ。悪かった。」
彼は心底申し訳なさそうな声で謝罪をし、抱きついてきた美月を同様に抱きしめ返そうとした。
だが、その手は美月の背中に回る事はなく、彼女に見えない位置で片方だけ握り拳を作ったまま、離れていってしまった。
「私の方こそ、ごめんなさい。嘘をついた上に貴方を酷く傷つけてしまった。」
彼からの抱擁が無かった事に対し、少し寂しく思いながらも、そう謝罪を述べる。
すると、日比谷教頭は「お前が謝る話ではないだろう。」と切り出し、口を開き始めた。
「私達は後腐れの無い関係だった。お前は不貞行為を働いたわけでもなければ浮気をしたわけでもない。私がお前を責める権利は無かったというのにお門違いも甚だしい。お前はただ虫の居所が悪かった私のサンドバッグにされたようなものだ。そうだろう?」
「...そうだったかもしれないけど...でも...私が最初から本当の事を言えば、あんな事にはならなかったかもしれないのに。」
「碌にお前の話を聞いてやれなかった私が言うのも何だが、その本当の事とはお前にとって触れられたくない出来事だっただろう。致し方ない状況だった筈だ。だから嘘を吐いたんだろう。私は本来、お前に寄り添って最後まで話を聞くべきだった。私の自制心が効いていれば、今回の事は防げていた。お前は何も悪くない。申し訳なかった、美月。」
「そんな...謝らないで下さい...誰だって感情をコントロール出来なくなる時はあります...。私はもう...大丈夫ですから。」
昨日の事を淡々と客観的にそう語り、自責の念に駆られているのか、幾度も謝罪を繰り返す彼に美月は胸が苦しくなって、思わずそう伝えたが、彼は力なく微笑んだだけだった。