🌹密会🌹
第3章 🌹June🌹
「家まで送る。」
耳を疑うような台詞に、私は一瞬聞き間違いかと思った。
「いえ、大丈夫です。」と断る私に対し、「風邪でもひかれたら困る。」と又も彼らしくない台詞と共に、眉を顰められた。
その様子に何だか断るのも申し訳なくなり、結果、駐車場までの道のりを相合い傘で歩く事となった。
接近しすぎて肩同士が触れ合う事のないよう、気をつけながら歩みを進めていたが、急に彼の厚く広い手が伸びてきて、指を絡め取られる。
まるでカップルのような恋人繋ぎに気持ちが全く落ち着かず、何度も振り解こうかと思ったが、彼の骨ばった手にしっかり握りしめられている為、振り解く隙はどこにもない。
辿り着いた駐車場にて、一際目立つ高級車を発見する。願わくばその高級車ではありませんように...と思ったが、残念ながら日比谷教頭はその威圧感のある黒塗りのベンツに近付くと、私に向けて助手席を空けた。
緊張した面持ちで助手席に乗り込んだ後、運転席でエンジンをかけた日比谷教頭に行き先を尋ねられた私は、自宅の住所を口頭で伝える。
ビルや住宅地の灯りが目立つ夜の街並みを颯爽と走り抜ける。普段お目にかかれない高級車に乗った事でカチコチに身体が固まっていたが、車内に流れたスローな海外ジャズが少しずつ緊張を解していった。