🌹密会🌹
第9章 🌹February🌹
「お忙しいところ失礼致します。いつも大変お世話になっております。よろしければどうぞ。」
電話が終わったと分かるや否や、真っ先に日比谷教頭の元へ駆け寄り、控えめな声のトーンで彼にそう告げるとお洒落なパッケージのチョコを差し出した。
「三原さん、ありがとう。こんな高級店のチョコに見合うお返しは出来ないかもしれないが...私が頂いても?」
「全然構いません!義理チョコですので!ありがとうございます!」
社交辞令的な笑みを見せた彼の様子に、あからさまに舞い上がった彼女がこちらへ戻ってくる。事のなり行きを見守っていた私は、危うく日比谷教頭と視線が合いそうになって反射的に視線を逸らした。
「はぁー...緊張した。」
「凄い度胸。私にはとても出来ないよ。」
「そんな事ないわよ。バレンタインに便乗しただけ。やんわり断られたから義理チョコとして渡してよかった。マナーとして受け取ってくれたんだろうけど、やっぱ本命居るんだなぁ〜。」
「...そ、そうだね....。」
「美月ちゃんは気になってる人、居ないの?」
「い...ないかな...」
「嘘下手くそすぎない?(笑)準備してきたんなら、さっさと渡しちゃいな。」
「いや...でもやっぱ...いいかな。」
「ま、無理強いはしないよ。ただ美月ちゃんが後悔しなければいいなって思っただけ。」
叶わない恋だと、片想いでもいいと思いながら、自分の気持ちを市販のチョコと一緒に手渡す。
例え肉体関係が生じたとしても、大人な三原先生は、彼と割り切った関係を維持出来たのかもしれない。
じめじめと湿っぽい気持ちに包まれる中、学校のチャイムが鳴り響く。
その後、職員会議で連絡事項を伝える日比谷教頭から一度意味ありげな視線を投げかけられたが、気弱な私はその真意を自ら聞き出す事が出来ずに終わってしまった。