🌹密会🌹
第9章 🌹February🌹
「ある程度という事は全快には至ってないという事か?」
「え!...あ、はい。ですけど、お誘いを断る程、体調が悪いわけでも無くなったので....」
「いや用件は別だ。今後に関わる大事な話をしたかった。無論、全快した後でお前の都合に合わせて日程を組む予定だが、空いてる日を教えてくれないか?」
頭を鈍器で殴られたような衝撃が全身を貫く。
身体の末端から徐々に冷え始め、全身の血が引いていくのを感じた。
全く覚悟をしていなかったわけじゃない。
でも、こんなにも早く見限られる時が来るなんて...。
断り続けたのが駄目だった?使えないって思われた?
玩具でいいから、まだ貴方の側に居たいのに。
もうそれすら叶わないなんて。
「美月...聞いているのか?」
「あ...はい....すみません...えっと...来月の12日の土曜日なら....。」
拒絶したい感情を飲み込んで著しく鈍った判断力で都合の良い日を口頭で伝える。
平静を装いながらも、片側の頬からは涙が伝った。
「分かった。ではまた今度。」
本当にスケジュールの確認だけを済ませたかったのか、私の返答も待たずに、あっさりと彼は電話を切った。
直後に、大粒の涙がスマホの画面を汚していく。泣いてはいけないと自分を戒めても決壊した涙腺によって視界は涙で滲んでいった。
「私を置いて...行かないで。」
残酷にも私を見捨てる彼へ届く筈のない、虚しい呟きが響く。絶望に打ちひしがれて泣きじゃくる私の脳裏に、ふと過ったのは言葉で優しく慰める彼の姿だ。だがその仮初の虚像は瞬く間に桜吹雪のように散って、儚く消え失せる。
縋るものが何も無く、心の平穏を失った私は、結局渡せずじまいのゴディバのチョコレートを鞄から引っ張り出すと、開封する。
どうせ捨てられてしまうなら渡してしまえば良かった。
乾いた笑みを浮かべながら、手掴みで口の中で放り込んでいったお高いチョコレートは無味に等しかった。