🌹密会🌹
第10章 🌹March(終章)-1🌹
「マンハッタンを1つ。」
定番のカクテルメニューの中から、まずはウィスキーカクテルを1つ頼む。
深く燻んだ赤色が印象的なマンハッタンカクテルが出てくると、グラスを掴んで口を付ける。その美味しさにあっという間に飲んでしまうと、何かのスイッチが入ってしまったのか、次から次へと注文をしていった。
黎一さんは、どんなお酒が好きなんだろう。
一緒に飲んでみたかったなぁ。
6杯目となるショートカクテルを口にしながら、ふと頭に思い浮かんだのは、今、忘れたくてたまらなかった、日比谷教頭だった。
嫌だな、何でまた考えるんだろう。
悲しくなるだけなのに。
途端にツンと鼻先が痛くなってきて、気づけば、頬を伝った涙が甘いカクテルの中に落ちていく。
シクシクと一人泣きだす美月へ、バーテンダーが心配そうな表情を見せる中、真鍮のドアベルが音を立てて鳴り響く。