🌹密会🌹
第10章 🌹March(終章)-1🌹
待ち合わせは私の自宅前。
黎一さんが、直接車で迎えに来てくれるという話だった。
呑気に公共交通機関を使ってる暇もなく、
財布に大打撃だが、ホテル近くのタクシー乗り場から自宅に直行する事にした。
だが不運な事に途中渋滞に巻き込まれてしまい、結局待ち合わせ時間を15分もオーバする事となった。
「...何処に行ってたんだ?」
車内で待機していた日比谷教頭は、少々苛立ったような口調で私に尋ねた。
「ごめんなさい...ちょっと買い物が長引いちゃって」
面目ない気持ちで一杯だったわけだが、まさか遅れた本当の理由を言うわけにもいかない。胸が痛むが、咄嗟に口からでまかせの嘘を美月は言う他なかった。
「時間にルーズな人間は周囲からの信用を失う。君も社会人だ。気をつけなさい。」
ピシャリと正論を吐き捨てると、日比谷教頭は車のエンジンをかける。
何となく重々しい空気の中、発車した彼の車は、どうやら彼の自宅方面に向かっているようだった。
遅刻した私が全面的に悪いんだけど、
今から彼と話すの...なんか気まずいな。
仏頂面のまま、ハンドル操作をする日比谷教頭に、美月は心の中でハァと溜息をついた。
彼の自宅まで目前という所で、車が赤信号に捕まった。
「美月」
そう呼びかけた彼の視線は鋭利なナイフのように鋭い。
「な、何でしょう....。」
その視線に怖気付いた美月は、小声で返答する。
「.............。いや、やはり話は後にする。」
暫しの沈黙の後、日比谷教頭は突き刺すような視線を美月から信号機へと戻した。
そして信号が青色に表示されると、勢いよく車が発進する。彼がアクセルを強く踏んだ為だろう。
黎一さん、さっきより機嫌...悪い?
もしかして何か勘づいた...?
いやでも、何とか上手く言い訳したし、不審な部分は無かった筈...。
何が彼の気に触ったんだろう。
美月は道中グルグルと思考を巡らしたが、当然答えなど出る筈もなく、何処か落ち着かない気分のまま、彼の家に足を踏み入れる事となった。