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🌹密会🌹

第10章 🌹March(終章)-1🌹



てっきり話し合いする場所だと思っていた吹き抜けのある広いリビングを通り過ぎ、螺旋階段を上がって、日比谷教頭の寝室兼書斎に通される。

初めて彼のプライベートな空間に通された時は嬉しくてたまらなかったというのに、今は漠然とした不安に襲われていた。




「本題に入る前に、1つ確かめたい事がある。」


美月に自分のベッドに腰掛けるように勧めた彼は、強い眼差しと淡々とした口調で彼女にそう問いかけた。

「...何ですか?」と努めて平静なフリを装った美月だったが、何を聞かれるのか分からない恐怖から心臓はドクドクと激しく脈打っていた。



「お前の身体から煙草の匂いがするのは何故だ?喫煙者ではなかった筈だが。」



「....え....?」



「何だ気づいてないのか?お前のコートからだ。」


彼にそう指摘された瞬間、美月は思わず自分のコートの袖先に鼻を付けた。
確かに、あの忌々しい男が吸った煙草の匂いが香った。


ヤバ……あのラブホに長時間居たことで、嗅覚が鈍っていた……?
でも動揺を見せたらお終いだ。
何とか上手く誤魔化さないと。


そう自分に言い聞かせるものの、けたたましく鳴り響く彼女の心臓は、更に鼓動を増していった。


「昨日は...一人で居酒屋に行ってました。飲みたい気分だったので...。」


「ほう...そこが喫煙可能な飲み屋だったと?」


「そうなんです。それで飲み過ぎて終電を逃しちゃったんです。仕方なくビジネスホテルに泊まったんですけど爆睡しちゃって...。気づいたら黎一さんとの約束の時間が迫っていて...すみません。」


「なるほど。酒に溺れて眠りこけた上に、煙草の匂いが染み付いた服を着替えられなかったと?」


「そうなんです。黎一さんを不快にさせてしまい、本当にすみませんでした。」


美月は彼にそう説明すると、軽く頭を下げた。

ああ良かった。
これで彼も納得してくれた筈。


ギリギリではあったが、何とかこれで話題を上手く切り抜けられた筈だ。
そう確信した美月は、ゆっくりと顔を上げようとした。



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