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副業は魔法少女ッ!

第4章 想いの迷い子



 確かに、魔法少女が現実世界の何もかもを修復出来れば、文明の力も不要になる。世の理を保つためにも、制限はかけられるのだろう。だが、なずなを死人のような顔にしたのは、本人曰く日常的な怪我以上に、彼女のブラウスに入った鋏だ。

 殴打の痕が薄れて、ほとんど生傷が閉じただけで、なずなの顔色は戻ったように見えかけていた。


「私は幸せ者だよ」


 パンナコッタの蓋をめくりながら、なずながおずおず話し出した。


「ゆいかさんにこんな話、無神経だけど……でも、すぐるくんが元気でいてくれるだけで、それ以上の贅沢は言えない。寝屋川さんや本島さんは、大事な人を失った。ゆづるくんだって笙子さんが。でも私は、なつるさんに見てもらった限りだと、すぐるくんから何も奪っていない」

「──……」

「ブラウス切られちゃったのも、私のよけ方がいけなかったの。すぐるくんの言うこと聞かないで、髪の色、戻さなかったから……。すぐるくんはお洋服じゃなくて、私の髪を切りたかっただけだから」


 それが問題だ。

 喉元まで出かけたやりきれなさを飲み込んだのは、ゆいかが何か言ったところで、なずなは変わらないからだ。泣くためにゆいかを訪ねてくるようになっただけ、彼女にしては成長した。

 例のごとく帰りの遅かったなずなに逆上した同棲相手の一件を両親に打ち明けて、ゆいかは夕飯と風呂の用意を頼んだ。アルバイトをしていることを正直に話したらどうか、と提案した父親に、なずなは首を横に振る。

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